様々な思考が胸を裂き、メイは苦しくなった。
怖くなった。
悲しくなった。
そして、今、こうしてリクのことを深く考えている自分自身にも驚きを隠せなかった。
なぜ、リクのことをこんなにも深く考えてしまうのだろう。
なぜ、夜寝る前に、リクの顔が浮かぶのだろう。
なぜ、昔リクにもらったクリスマスブーツを捨てられずにいるのだろう……。
苦い過去と現在の自分が何十回も交差して、視界を占領するような苦しみが湧き上がってくる。
玄関の扉を開けようとした手から力が抜け、メイはその場に座り込んでしまった。
それと同時に、肩にかけていた通学用カバンが音を立てて地面に落ちる。
それに気付いた菜月が、エプロン姿のまま玄関に飛び出してきた。
「おかえり、メイ。
どうしたの?
どこか具合が悪いの?
お母さんの肩につかまって?」
「………うん」
メイはうつむいたまま、菜月の肩に手を伸ばす。
菜月は、わざとメイを呼び捨てにしていた。
メイに孤独感を感じさせないためである。
また、実の子供·ミズキと同じように育てたかったから……。
メイも、菜月に名前を呼ばれることに喜びを感じていた。
ちゃんと、一人の人間として見てもらえている気がして……。
翔子からは、名前を呼んでもらった記憶がない。
「あんた」「バカ娘」「とろくさい女」としか、言ってもらえなかった。


