「……寂しくなんてないわ」
メイを養子に出すと言った時と同じ、キッパリした口調で翔子は答える。
「本当ですか……?
この先、後悔しませんか?」
翔子は吸いかけのタバコをもみ消した後、ゆっくりと煙を吐き出した。
「後悔なんてしていないし、これで良かったと思ってるわ。
……私ね、来年結婚するの。
今は、その相手のマンションに住んでる」
「けっ……こん……。マンション……?」
突然のことに思考がついていかず、ミズキとナナセはショックを受けた。
「メイちゃんを苦しめて傷つけた上に、結婚……ですか?
自分だけ幸せになるんですか?」
そう言わずにはいられなかった。
ミズキの目には、怒りで涙がにじんでいる。
メイは、星崎家の一員になってからも、時々泣いて苦しみ、虐待のトラウマで吐いたりもしている。
それなのに、翔子は虐待のことを反省するでもなく、
メイを心配することもなく、
自分だけ、新しい幸せをつかもうとしている……。
以前の翔子だったら、そんなミズキの言葉に反発していただろうが、今の翔子は違う。
彼女は穏やかな顔を崩さなかった。
「メイのこと、ずっといなくなればいいって思ってた。
たしかにあの子は私が産んだ子だけど、私はあの子のことを可愛いと思えなかった。
可愛いと思えたら良かったんだろうね。
でも、どうしても、そうは思えなかった」


