アイリはジムを辞めたらしい。

ナナセがミズキと仲直りをした日以来、ジムで彼女を見かけることはなくなった。


ミズキは、ナナセと共にトレーニングマットの上で体をひねりながら、ふとアイリのことを思い出した。

トレーニングルームに人がいないのを確かめ、彼女はナナセの肩にもたれ掛かる。

ナナセは顔を真っ赤にして、

「急に、どうしたの?」

と、声をうわずらせた。

ミズキはそれに気付いていないフリをする。

「ふふっ。何となく?」

「何となく、なんだ……」

「ガッカリしてる?」

「そっ、そういうわけじゃっ……」

意地悪口調のミズキに、ナナセは耳まで紅潮させている。

「ナナセ君って、私がジムに来てない時、アイリちゃんとどんなトレーニングしてたの?」

アイリに対し、特別な思い入れがなかったナナセは首をひねった。

「うーん……。何してたかな……。

あ! プールとか!

アイリちゃん泳ぐのが苦手って言ってたから、教えたことあるよ」

「へぇ……。プールかぁ」

“やっぱりアイリちゃんって、ナナセ君のこと……”

ミズキはアイリの恋を確信したけれど、ナナセ本人はアイリの気持ちに全く気付いていない。


ミズキは急に立ち上がり、

「私にも、泳ぎ方教えて!」

と、ナナセの腕を両手で引っ張った。

ナナセは慌てて立ち上がる。