しゃぼん玉


メイが視線を向けた先には、リョウがいた。

リョウと同じ顔立ち、同じ髪の色、同じ瞳の色をした、穏やかな顔が……。


「リョウ……」

メイはミズキの顔を見て、つぶやく。

メイがいま見ているミズキの顔は、あの調理実習の日に見た、リョウの顔そのものだった。


声変わりが遅かったリョウは、亡くなった14歳当時も、同級生の男子達に比べ高い声をしていた。

そのせいか、ミズキのあたたかい声音は、リョウのそれを思い起こさせるのに十分過ぎる。


「リョウはずっと、ここにいる。

メイちゃんのここにも」

ミズキはメイの心臓に手のひらを当てた。

メイは抵抗することなく、自分の心の内に目を向ける。


リョウに振られてあんなにもいらついたはずなのに、彼が亡くなった後も、会いたいと願っていた。

亡くなった人間に会えるなんて非現実的なことはありえない、と、知っていても。

会いたくて、メイは何度もリョウの墓を訪ねた。

ここがファンタジーの世界だったら、墓石にリョウの幽霊が現れて、会話してくれるのかもしれない、と考えながら……。


そんな日常の中、母親に罵倒される日々は続く……。

手足で殴られ、

物を投げつけられ、

言葉で執拗(しつよう)に責められ……。


一日中、母親の元から逃げたいと思っていた。

けれど、待っているだけでは何一つ状況は変わらなくて。


近隣の住民が異変に気付いて駆け付けてくれるかもしれない。

周囲の助けを期待した事もあったが、母親は近所付き合いを一切していない。

ゆえに、穂積家に近付く者は一人もいなかった。