リクが宇都宮に殴りかかったという話は、メグルの祖母·清を通して、メイの耳にも届いていた。
メグルの部屋。
もう着慣れてしまったメグルのスウェットに着替えているメイに、清が扉越しに話しかけてきた。
「メイちゃん。今、メグルから電話がかかってきたんだけどさぁ……」
清は、リクのケンカの件を伝える。
リクのケンカを見てパニック状態になったメグルは、慌てて清に電話してきたそうだ。
清は、メイが着替え終わったのを確認してから部屋の中に入り、メイの背中を優しくなでながら、枯れた声で言った。
「メイちゃんのことを想っているのは、私とじいちゃんとメグルだけじゃない。
リク君ていう幼なじみの男の子も、メイちゃんを心配してるんだね。
メイちゃんは、ひとりぼっちなんかじゃないよ」
「……あいつはお節介(せっかい)過ぎるんだよ。
それに……」
『あいつは私とヤリたいだけでしょ?』……メイはその言葉を飲み込んだ。
死にたいと騒いだ時以来、清には言いたい放題だったメイも、そういう事を言ってはいけないと思えた。
清の瞳が、あまりにも優しくてあたたかかったから……。
清は、うつむくメイの横顔を見ると冗談めかして、
「リク君がメイちゃんのことを本気で考えてくれる男の子なら、メイちゃんとの間にある壁を、いくらでも壊してきてくれるはずだよ。
メイちゃんはそれまで、待つだけでいいんだからね。
リク君に、無理に近付くことはないんだよ」
「……」
清の一言で、メイの気持ちはスッと楽になった。
どんな感情がどのように変化したのかは、分からなかったけれど……。


