緊張を鎮(しず)めるためナナセは息をのんだが、心臓の音は早くなるばかりで。
ミズキはナナセの方を向き、穏やかな気持ちでナナセを待っていた。
ナナセはミズキの肩に両手を置き、細いまつげとさらさらの頬を見つめる。
つやつやと潤いのある綺麗な唇……。
ファーストキス……。
ミズキの唇に触れる瞬間……。
もっと先のことだと思っていたのに、その瞬間は突然にやってくる。
体の奥が爆発しそうな感覚を覚えつつ、ナナセはゆっくり、ミズキの唇に近づいた。
互いのぬくもりが、空気を伝って肌に触れる。
そこまで近付いた時、ナナセのケータイが鳴った。
大きな音には設定していないはずなのに、場所が静かなせいで、着信音は大きく鳴り響く。
現実に引き戻された二人は急に恥ずかしくなり、勢いよく体を離した。
「誰だろ……」
声を裏返すナナセに、ミズキはうっすら頬を赤くして小さく笑い、電話に出るよう、うながした。
電話の相手はリクの父で、ナナセの大学の講師でもある松本義弘だった。
電話を終えると、ナナセは立ち上がり、
「今日から、リク君ちに行かなきゃいけないんだった……!
すっかり忘れてたよ!」


