あの時アイリが、ナナセとミズキが仲良くしている姿を見て涙を流した理由。
それは、自分とマサヤの付き合いをミズキとナナセにダブらせて差を感じたからではなく、ナナセがミズキに向ける優しさに胸が苦しくなったからに他ならない。
そんなこと言えるわけがなかったし、ナナセに惹かれている自分の気持ちにもフタをしたかった。
気付いたところで報われないのだから。
ナナセにはミズキがいるのだから……。
ナナセへの片思いを振り切るためには“マサヤの彼女”というポジションが一番理想的で、アイリにとっては都合が良かった。
一生懸命努力した。
ナナセへの思いを断ち切るために、
「マサヤが浮気しているかもしれないから、つらい」
と、口に出してみた。
自分の意思とは関係なく進む気持ちに耐え切れず、ジムの更衣室で泣いてしまったアイリのことを、ミズキは慰めてくれた。
「私もナナセ君とすれ違ってたから、気持ち分かるよ」
ミズキにそう言われた時、喜んでいる自分がいた。
“私、最低だね……。
ミズキちゃんは、私の悩みを軽くするためにナナセ君の話をしてくれたのに……”
考え事をしていると、駅から三つ手前の交差点で、ケータイ片手に歩いているナナセを見つけた。


