蝶が見る夢

『あやめ、あのね…』と、もじもじしながらその報告を言い出す様は、誰も彼も同じだと冷めた思考で捉えていた。
また私は取り残されたと、痛感する瞬間だった。
そう、また私だけが取り残されていく。
ラケットをぎゅっと抱き込んだ腕に、力が入る。
ガットが皮膚に食い込んで、痛い。


『私と一緒で高校入ってテニス始めたのに、誰よりも頑張ってたし。それで地区予選も突破したわけでしょ?そりゃあ、先輩の目にも止まるって』

『そんなこと…!』


謙遜を思わせる彼女の言葉の続きは、なかった。
どうせ腹の底では、賛辞の言葉に浮かれているくせに――。
吹けば飛ぶような私の笑顔の中身は、反吐が出るほど醜く汚いものがごぼごぼと吹き出している。















例えばお腹が空いたら冷蔵庫を開けるように、または眠くなったら自然と目を閉じるように、私にとっては生れつき備え付けられていた本能であったかと思うくらい、ごく自然に、何も考えず、肉を引き裂いていた。