ナオのことを知っているか知らないかは分からないけれど、ナオのことが羨ましくて仕方ないはずだ。
私が匠に縋れば、匠はきっと店を辞める決心をする。
でも、それは絶対に言わない。
匠は、それ以上何も言わなかった。
中途半端なのは、ナオだけじゃない。
でも、私はそれを悪いとは思わない。














翌日、遅番の私が出勤すると、ロッカールームに早番の愛美が私物のバッグをがさがさと漁っていた。


「おはよ」

「おはよう。今から休憩?」

「ん」


ちらっと私の顔を見ただけで、愛美は私に顔を背けて、またバッグを漁っている。
ぶっきらぼうなのはいつものことで、私も愛美に背を向け、気にせず自分のロッカーを開けた。


「…ねえ、あやめ」

「んー?」


愛美の問い掛けに、私は着替えながらだらしない返事をする。


「私、ここ辞めるんだ」


予測したこともなかった愛美の言葉に、捲り上げたTシャツがすとんと掌から滑り落ちていった。