そんなずるずるとした日が少し続いて、それからすぐ、そんな匠が私を「あやめが必要みたいだ」と言ってくれた。
その一言が、いわゆるお付き合いの合図となった。
自称“壊れた”匠しか知らないこの現状で、私だけが元々の自分に魅かれてくれていた(それが過去形であれど)からだと。
匠は私を手放さない。だから、私は吉祥寺の家に帰ることが次第に減っていった。
“先輩”から“匠さん”、“匠さん”から“匠”と、呼称の変化もとても早く、それに伴って匠が私に依存する度合いも高まっていった。
突然私と同じ位置に蝶のタトゥー―それも私と殆ど同じ大きさ、同じデザインの青い小さな蝶―を入れてきた時には、今のこの人には私が絶対なのだと確信した。
いつかの私がそうであったように。
何故私は匠と付き合う形を選んだかと言えば、その理由はとても単純明快で、あの時私が夢を見た彼の姿が、今の私を形成しているから。
そこに思い描くことは深いものも浅はかなものもあれど、根底はそれに尽きる。
本当に、それだけだ。