蝶が見る夢

営業でも掛けに来たのだろうか。
ああ、これ知ってる。ホスト用語で言うところの「育て」ってやつでしょ?
今はお金を持っていなくても、今はその気がなくても、徐々に自分の客にすべく甘ったるいくらい甘い顔で近づくのだと、どこかで聞いた。
それがよりによって同郷の後輩にそんなこと…とは思うが、我が身の保身は過度なくらいが丁度良い。


『んー…ええっと、もし良かったらお茶でもしないかな、って思ってみたり、して…』


元々何かしらの理由を持ってここに居ただろうに、先輩はまるで今になって理由を作ったかのように、私を誘う言葉をたどたどしく紡ぐ。
それが素なのか、演技なのか、私には見抜けない。
ホストの知り合いなんていないし、ホストと関ったことなんて人生において1度たりともなかったから。