『それなら連絡くらいして下さいよ!ってか、私の勤務時間も知らないのに!?』
『別に良くね?新宿なんて、俺の庭みたいなもんだし』
『…あ、そうですか…』
こちらが何を言ってもしれっとした態度の先輩に、私はもうそれ以上何も言えない。
全く自覚がなかったが、あまりに突然の事態に私は先輩にすっかり軽口を利いていた。
高校生の私がこんな姿を見たら、まず間違いなく卒倒する。
…いいや、それ以前に、こんな軽くて緩い山際先輩の姿を見たら発狂するに違いない。
私が抱いていた先輩のビジョンは、爽やかで扇動的で力強く逞しい先輩だったのだから。
きっと私は、自分が思っている以上に大人になった。
だからこの前の偶然も、今の状況も、不思議なくらい受け入れられている。
『…それで。どうしてまた私に会いになんて?』
先輩はスーツ姿で、ここに居るのは「匠さん」なんだと思うと、必然的に身構えてしまう。



