蝶が見る夢

まるで、仙台に戻ったような感覚に陥っていた。
そう言えば、もうどれくらい仙台に帰っていないのだろう。


『…っと、もう時間か』


1度も時計を見なかった癖に、きっかり2時間が経つ頃に山際先輩は腕に目線を落とした。
この仕事がすっかり板についているのを知った瞬間だった。


『今日は…有り難うございました』

『どういたしまして』


私が頭を下げると、山際先輩も頭を下げた。
お店に代金はもう既に支払ってある。
山際先輩に直接金銭を渡す必要はない。
先輩は、音も立てずに立ち上がった。
元々線の細い人だったけれど、高校の時より、少しばかり痩せた気がする。
この仕事だけで生活しているのだろうか。
きちんと寝て、きちんと食べているのだろうか。
考えても仕方のないこと、聞けるはずもないことが、頭を過ぎる。
不意に、なんだかもう2度と会えないような気がした。