『それに、泣いてる女の子を置いて帰るなんてできないし、さ』
山際先輩はそう言うと、どこからともなくハンカチを出し、私の前に突き出した。
『泣いて、る…?』
『…これで拭きなよ。ね?』
柔和に微笑む山際先輩の表情が揺らめいて、そこで漸く私は自分の頬が冷たいことを自覚した。
気付いたら、2時間が経過していた。
互いにトイレにも行かず、ずっと座ったまま、向き合ったまま、思い出話に花を咲かせつづけた。
今まで少しも言葉を交わしたことがなかった、その空白を埋めるかのように、私は喋り続けた。
体育の先生が誰だったかとか、赤点を何回取ったかとか、駅前のマクドナルドに入り浸っていたとか。
私が出張ホストを買った理由は会社の愚痴を言うはずだったのに、だ。



