『……ま、いいや』
先に口を開いたのは、山際先輩の方だった。
『どうあれ、あんたが客だってことには変わらないもんな』
諦めたのか開き直ったのか、山際先輩は私の向かいの椅子を引き、腰を下ろした。
こんなに近くで山際先輩の顔を見たことなんて、1度もない。
私が知っている山際先輩の姿から何年も経っているはずなのに、全く変わらない顔立ち。
鼻筋が通っていて、切れ長だけど優しい目をしていて、頬骨のシャープなラインとか。
あの時はあまりに強い憧れのせいで、遠目からでも、まともに顔を見ることができなかった。
唯一山際先輩の細部まで見ることができたのは、当時の友達がどこからか入手してきた体育祭の写真。
不思議と、今なら真っすぐとリアルな山際先輩を見ることができる。
たった数年で、人の…私の感覚は、そんなにも変わるのだろうか。



