蝶が見る夢




『M高で山際先輩が生徒会長の時…山際先輩が3年生の時、私は2年生でした。私、帰宅部だったし、山際先輩と直接話したことはなかったですけど…』


冷静を取り繕って、私は説明する。
先輩は苦々しく笑い、高校の時よりも髪を長く伸ばした頭をがしがしと掻きながら、


『…マジかよ…』


吐き出すように、そう呟いた。
山際先輩がそういう反応をするのも無理はない。
私が一方的に先輩を知っていただけ。先輩にとっては、こんなところで素性を明かされ、とんだ迷惑でしかないだろう。
山際先輩は私にとって大切な人だった。
だけど、「今の今まで片時も忘れたことがなかった」とは言えない。
山際先輩が高校を卒業して、私も高校を卒業して、日を追うごとに彼を想う時間はどうしても薄れていく。
今に至るまで、私は2人の男の人と付き合った。
誰かと付き合っている間は、他の男のことなど考える余地もない。