「ここって、匠の家…です…よ、ね?」


付加疑問文の彼女のそれ。
確信ではないのか、まだまだ甘いなあ。


「そうですけど」


家主不在、そして家主の許可なくここを「匠の家」だと言い切ったらまずかったかも。
しかし言ってしまった以上、私ももう引っ込みがつかない。













少女は、匠の部屋のドアのすぐ横でうずくまっていた。
私の仕事帰りのことだ。
そのシルエットを発見した時、一瞬ぎょっとしたけど、匠のお客さんだということをすぐに理解した。
客の躾くらいきちんとしなさいよ、家までついて来られて仕方ないなあもう、なんて思いながら少女を無視して鍵穴に鍵を差し込む。
すると、少女はふっと顔を上げて、私の目を見た。
大きくて黒目がちの瞳。
「うわ、目が合っちゃったじゃない、どうすればいいのよこの子!」と心の中で叫ぶも、なぜか私の本当の口は、


「上がる?」


そう、少女を促してしまった。