私の生きる希望となった匠はそれだった。
今、私の腕の中で震える匠は、まるで赤ん坊同然。
弱くて脆くて、何もできない。
それなのに、どうして私は未だに今の匠を10年前の匠と重ねてしまうのだろう。


「気にしない、気にしない」


匠の頭を優しく撫でてやると、匠は声を立てずに泣き出した。
毎度のことだ、私も今更動揺しない。
匠は「セーラム」のNo.1で、なのに、1年前に私と付き合ってからまともに出勤をした試しがない。
すぐに「嫌だ」「辛い」と仕事を休む。
果ては、「俺なんて誰にも望まれていない」と言い出す始末。
もしかしたら付き合う前から、こんな感じなのかもしれない。
世間一般から見たら、本当にどうしようもない男。
それでも、私は匠を守りたいと願う。
なぜなら、10年前に私を救ってくれたのは、紛れもなくこの男だったからだ。