「え?」
玲くんが驚いた顔で櫂に振り向いて。
「あの女に感じた嫌悪感も罪悪感も、二度と感じるな。
…芹霞では出来んショック療法だろう?」
にやりと、そう笑った櫂は――
「よく、戻ってきた」
ふわりと柔らかく微笑んだんだ。
今までの嫌悪感を、見事に払拭させて。
いつも通りの、"信頼"と"愛情"がそこにはあった。
――途端。
玲くんは泣きそうな顔をしながら、
「ただいま」
やはり同じように、ふわりと微笑した。
櫂の心に、彼は応えた。
ああきっと。
2人には、多くの言葉など必要ないんだと思った。
血の成せる業かどうかは判らないけれど、理屈ではない処で…2人は通じ合っている。
それでも――
どうしても形にしたい言葉というものはあるみたいで、
「櫂…僕は……」
玲くんは気にしているんだ。
櫂に向けた"暴言"。
玲くんが震える声を出せば、
「玲、すまなかった」
言い出す前に、櫂は頭を下げた。
「頭を上げれよ、櫂!!! 僕……」
「俺は、正直揺らいだ。
それだけのことをしてきた。
だけど――
それ以上に、今のお前を信じたい。
だから。
俺を信じろ」
それは櫂特有の…不遜にも響く、端的すぎる言葉だったけれど。
それ以上…
どんな言葉があるのか。
伝えたい心があるならば、飾るものなど必要ないんだ。
玲くんは続けようとしていた言葉を呑み込み、
「勿論、喜んで」
微笑した。

