更に今、他人の狂気に濃度を高められ、これだけの"狂気"に囲まれて…よく玲くん無事でいたものだ。


その極度の忍耐力のおかげで、あたし達が玲くんが居るこの世界に行き着いたのは…皮肉だけれど。


"エディター"に襲われていた玲くんの状態は、決して表に出ることが許されない…深層部分の"忍耐"を遙かに超えてしまったからこそ、逆転現象が起きたんだ。




いつだって…

満たされないという心は、玲くんにはあるだろう。


ない方が、逆におかしい。


櫂に恨み言を言った"コゲ玲くん"もまた、玲くんの一部なのかもしれない。


だけど、それだけが本当の玲くんではなく。


憎悪に流されず今まで櫂と一緒に居たのは、それも紛れもなく玲くんの意志だろうし、仮に"コゲ玲くん"が言うように櫂を心底恨んでいたのなら…過去幾度ともなく櫂の為に命を張ってきた玲くんに説明がいかない。


何だか煌によって、すんなり今までの玲くんの姿を信じる気になったのは、正直悔しい。


改めて言われなくても、皆心の何処かでは判っていただろうから。


だけど念押ししてくれて、逆に誰もが確信したんだ。


玲くんがいかに櫂が大好きかってこと。


そこまで狙っていた煌ではないだろう。


煌の言葉はいつだって、奴の本能に近い…直感的なものだから。


時に馬鹿なことを言って怒られるけれど、打算的なものは何もないストレートなものだから。


だからこそ、誰もの"本心"に一番近く。


玲くんから愛されている当の本人なら、殊更強く感じ直したはずだ。


その櫂は、もう十分過ぎるほどの量の"狂気"を吸い込んでいる。


まるで吸引力抜群の高性能高級掃除機で、何十年も手入れのない物置の黒埃やカビ等を吸い込んでいる図のようだ。


玲くんを苦しめるものだからというのは判るけれど、そんなもの大量に一気に吸い込んで櫂の体は大丈夫だろうか。