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絶叫する"エディター"の右手の指先は、以前見た通り…激しく何かの記号を描いている。


――よく判らん。字なのか図形なのか。


指の動きは多分、あの時と一緒だろう。


「おうおう、凄いね、神崎。黒いうねうねが、紫堂に吸い込まれていくよ。少しずつ…息苦しさがとれていくね。同時に…"エディター"の手の動きが速くなっているよね、何だか…恐怖が大きくなっていっているみたいだ」


由香ちゃんが目を細めながら、現在の状況を語る。


確かに――

どんな因果関係があるのか判らないけれど、するすると黒い闇が櫂の手に吸い込まれていくにつれ、"エディター"自身も…彼女が構成するこの世界にも、"動揺"が見られる。


櫂の提案はベストだったのだろう。

あたし自身、訳が判らない動作で彼女を揺さぶり、その隙に櫂と煌が…彼女の武器であり防具でもある闇…狂気を吸収したのは、彼女の余裕を奪うことに成功した。


まるで敵に直接刃を突きつけられている状態で、堅い鎧を剥がされ、無防備な状態をさらけ出しているような…"恐怖"が一層煽られているような…そんな感じに見て取れた。


しかし――

闇は狂気と櫂は言っていたけれど、狂気というものはそんなに大量に存在出来るものなのだろうか。


相乗効果。


その単語があたしの頭に浮かんだ。


あたしは、神妙な顔つきで自分の肉体を真上から見下ろし、しげしげと眺めている玲くんを見つめた。


玲くんは…どれだけの狂気を、今まで含有してきたのだろう。


不思議と怖いとか、気持ち悪いとかそんな感情はなく、その"狂気"こそが玲くんを苦しませてきた要因なのではないかと思ったら、泣きたい心地になってきた。


同時に、そうした"狂気"に対して、憤りを感じてくる。


どれだけ我慢を強いられていたんだ、玲くんは。