――玲の肉体が疲労して意識を拒む前に、玲を肉体に戻す。それが何より最優先だ。同化すれば七瀬が沈んだ出入り口など関係なく、俺達と同列の立場になる。そして同化の為には、玲の…あの女の狂気は妨げになる。俺と煌がそれを阻む。


何より、玲くんを苦しめる狂気を何とかしたいと、櫂は強い語気で言った。


――同時に"恐怖"の種をあの女に蒔いて強制覚醒させられれば、いや…歪(ひずみ)さえ作り出せられれば、逃げる隙くらいは出来るはずだ。


――言うは易しだけど、紫堂。第一どう"恐怖"させるのさ。"不安"を増大させる相手に。


――桜華でのことを思い出せ。あの女、あの時、恐怖をしていたんだ。


あたしは記憶を巡らせる。


紫茉ちゃんの友達の後輩…楓ちゃんに馬乗りになって、襲い掛かっていたあの姿を。


まるで"生ける屍"のようだった…正体は本物そっくりな"使い魔"


それでも本物と繋がる存在であるならば、あの時の異常も有効かも知れない。


それは一縷の望み。


――芹霞が俺に投げた石で…あの女、絶叫始めて意味不明なものを指で書き始めたよな。


ならば。



女が首を絞める。

石で頭を叩く。


あの時を再現すれば。


――そして、きっと…それに効力を発せられるのは黒髪の"女"。


だから――

あたしがやると、櫂に言ったんだ。



あたしだって、皆の役に立ちたいと。



そして間一髪――

玲くんをあの女の毒牙にかけずにすんで、今に至る。