もっともっと、心をぶつけたかった。

もっともっと、僕を見ていて欲しかった。


例えば櫂のように、我を忘れるくらいに必死になって貰いたかった。

例えば煌のように、僕の悪い処を叱り飛ばして貰いたかった。


もっともっと心を砕いて、君に接して貰いたかった。


優しい家族としての位置づけではなく…

櫂や煌のように…同年代の"男"として意識して貰いたかった。


年相応の普通の恋を、君としたかった。


「さあ…玲さん。来て?」


勝ち誇ったような顔をした女が…目を閉じる。


縊(くび)り殺してやりたい心を、僕は必死で抑えて。


あの毒々しい唇に、僕の唇合わせれば…それが開始の合図となる。


後は流れに身を委ねればいい。



得意分野だろ?


今までを思い出せ。


自分の意志など関係なく、ただ流されろ。


それだけでいい。


それだけで櫂は救われる。



だけど……

体が動かなくて。


動き方を忘れてしまったかのように…どうすれば僕が動き出すのか、どんなに考えても判らない。


激しい拒絶に…僕の身体がカタカタ震えだした。