俺の存在は…芹霞よりも小さいものなのか?
それは芹霞に対するような、恋愛の情ではないけれど、俺だって玲のことは好きで大切な存在で。
それは――
まるで伝わっていないのか?
伝わっていないのだろう。
玲の影(シャドウ)には、誰の声も届いていない。
何も――
判っちゃいない。
ここにいるのは、妙に大人びて聞分けのいい玲ではなく、
否定されることで癇癪を起こし、すぐ絶望に走る…"子供"の玲で。
酷く…哀しかった。
そんな時、重苦しい音が響いた。
「な、何…このゴゴゴゴっていう音は…」
遠坂の怯えた声に、芹霞の顔も引き攣って。
「あ、あの…黒い壁から…聞こえてくるよね」
やばい。
ここから逃げないとやばい。
これは玲の…狂気だ。
母親という名の狂気が、さらに玲を壊そうと押し寄せてくる。
俺だけではなく…
芹霞と遠坂を巻き込んで。
玲は…全ての狂気を解放しようとしている。
玲の領域でそれが解放されれば、一体どうなる?
「母さん…来てよ。
――"僕"の元へ…」
来る――
「ひいいいいッッ!!? 何か来る、何か来る!!! か、神崎、何だよあの黒い影!!!」
「手!!? 手じゃない、あのウネウネしてるの!!! 何かおいでおいでしているように見えない!!!?」
狂気が…やがて母親の姿となって。
かつて俺を殺そうとした…玲が嫌っていた母親の姿となって。
「さあ…"僕"を…愛して…?」
そう――
両腕を広げた時だった。
「させやしねえよ。
――約束、したじゃねえか、玲」
橙色が…視界に飛び込んできたのは。

