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ロッカーに続いていたのは、薄闇に覆われた道だった。


朱貴の術…八門の陣とかいうものによく似ているけれど、あたし達を導く印はない。


そして、朱貴のものであれば…岩のようなものに、『景』とか『驚』とかの1文字が書かれていたけれど、それがない代わりに…何かへんなものがある。


「何だいこれは…?」


由香ちゃんが呟いて顔を顰めた。



大きさ的には幼稚園児くらいの大きさだけれど…石に彫られた…仏像。


石で彫られた…地蔵像。


まあ…蒼生ちゃんが用意したものだから、どんな変梃(へんてこ)が出てきても、"仕方が無い"範疇になるのだけれど…あたしはそんな感想よりも、ある記憶が蘇った。


「ああ、小伝馬町で…お地蔵さんの頭を蹴り落としてしまった、その祟りというか…お地蔵さんに責められている気がする。一応合掌してきたんだけれど。駄目かな、やっぱりお供え物しないと…」


半分涙目になりながら言うと、櫂がびくっと体を動かす気配がした。


「首が取れた…地蔵の像…?」


「まるで"七不思議"だね。それ以前にさ、小伝馬町って…時代劇で言うと牢屋敷があった怨霊漂う場所だろう? そんな場所のお地蔵さん壊したのか、神崎~」


「やめてよ由香ちゃん~。そういうのあたし弱いんだって。そういえば合コンでもいたな、自称インテリ。南千住には処刑跡があるとかないとか…」


「そんなの、東京には色々あるだろうさ。今更だよ。江戸時代の中心は東京だからね。

例えばさ、板橋なんかも新撰組局長近藤勇が殺された有名な処刑場があるし、芝高輪だって刑場で…まあ後で品川の鈴ヶ森に処刑場が移ったし。ああ、浅草の小塚原(こづかっぱら)処刑場も有名か、南千住に移されたけれど。もっと後世で言えば、池袋近く小菅には東京拘置所があったしさ」


由香ちゃんは、基本博学だ。

あたしは初めて聞いたものばかり。