「は、葉山。お、お前も…十分か、可愛い「何で朱貴がいない?」


皇城翠が何か言いかけていた気がしたが、私は身体全体を煌に向けた。


「あ…多分、保健室だろうって、小猿が」


そこで私は身体を皇城翠に向けた。


翠は何だか脱力して項垂れていた。


「何でまた、危険な保健室だと?」


「え…あ、ああ…。紫茉の薬が…あるから」


何で、涙声なんだろう。


「薬?」


「ああ、"ジキヨクナール"っていう薬…。なんでもあれが紫茉には必需品らしくて」


私は顔を歪ませた。


忌々しいその名前。


そして私は、未だ玲様の薬を確保していない。


目覚めた玲様が、また錯乱されたらどうしよう。


「でもさ、朱貴のおかげか何だかしらないけれど、"ちゅう"の最中は…七瀬の容態落ち着いていたよな」


「ち、"ちゅう"…」


だから何で私を見るんだ、皇城翠。


「朱貴は…紫茉の体力を回復させられるけれど、紫茉の見ている昔の記憶というか、熱によってうなされる悪夢を消せないらしい。それが消せない限りは、紫茉は精神的に消耗し続け悪循環になるから、朱貴はずっと紫茉を回復させておかなきゃいけないと、聞いたことがある。

で、"ジキヨクナール"っていうのは、幻覚を中和させる即効性の働きがあるとかで、更に一緒に鎮痛、解熱効果もあるらしく…」


"幻覚を中和させる即効性の働き"


私は目を細めた。


「まあ、あれも…紫茉の死んだ父親が作っていた薬らしいけど」


「七瀬の父親って、製薬会社の者なのか?」


「よく知らないよ。だけど、周涅と紫茉がそんなこと話していたの、聞いたことある」


"幻覚を中和させる即効性の働き"


「それ…私にも貰えないものだろうか」


私は腕を組みながら、呟いた。


「あ? 桜、風邪でも引いたのか?」


「違う。…保健室に行けば…」


手に入るだろうか。



その時、ぽんと何かが飛んできて。


私はそれを反射的に、宙で掴む。


手の中には小瓶。


"ジキヨクナール"



驚いて、投げられた方向を見れば…


「破壊つくされ、それが最後の小瓶だ。

3錠ずつ。暫くはそれで足りるだろう」



朱貴だった。