「"エディター"は、紫堂と神崎が会ったイチルじゃない、師匠はそう言ってたね」


遠坂を経由して玲が言い伝えたことは、俺の思考を切り込んできた。


「師匠は…幼少時の記憶には、2人の姿はなかったと…昔の記憶は、専ら一縷に対する憎悪のみと」


遠坂がノートを読み返してそう言った。


「もし"エディター"が君の知っているイチルと無関係であるならば、それを判断基準にした君の前提は崩れるね。それなら…」


俺は――


「……逆だ」


笑った。


「裏付けになった。玲の…伝言で」


「……は?」


遠坂は、ぽかんとした顔を寄越した。



「伝言の2つ目。『"エディター"に、生前の"イチル様"の記憶がある。しかしその裏付けは、主観ではなく客観の記憶のみ。その記憶内容は、黄幡会内部に食い込んだものを含める』

3つ目。『"エディター"は、殺された記憶を持つ。しかしその殺人現場の記憶はなく、葬式で幽霊だと言われた直後に、自覚したものと思われる』


5つ目。『"エディター"は、一縷関係者に虐められていた形跡があるが、昔は一縷を虐めていた』


それらは俺の確信を強めた。2つの意識の混在する理由を」


芹霞と桜の視線も感じる。


「俺がひっかかっていたのは、俺の記憶にあるイチル。

あの肉体を"エディター"が持ち得るということが、どうしても釈然としなかった。

だが4つ目。『"エディター"は、誰かに唆(そそのか)されているフシがあること。そして"王子様"を見つけたら、楽園に招かれる"選ばれた"者になれると信じている』

…唆したものがあり、それが更に藤姫関連であるならば。

答えは自ずと導かれるから」