櫂Side
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「使い魔を放ったのは…久涅?」


遠坂が書き取ったノートの文字を見て、俺は目頭を片手で押さえて考え込む。


朱貴は、使い魔を放てるのは五皇クラスだと言った。


だが、緋狭さんだと受けたのは俺達の勝手なもので、緋狭さんだと断定されたものものでなかったのは事実。


「使い魔を放てる…紫堂次期当主…」


そんな者は聞いたことがない。


第一紫堂の中枢にいる者は、俺のように複数の異種の力を持つ者は多いが、変化させて分身として使う者はいない。


分身させる意味がないからだ。


調査や攻撃は全て、中枢を守る…例えば警護団のような者の役目であり、中枢自らが指揮を取って敵陣に乗り込むことはない。


そんなことをしでかしているのは、俺くらいのもので。


俺だって、芹霞や仲間の危険時以外は特に動かず、全て皆に任せている。


出来るのかも知れないが…やる意味合いがないんだ。


だからやり方すら知らないのが現実。


久涅は――なぜそんなことを?


排除された後、身に付けた技なんだろうか。


玲が受けたのは久涅の声だけだと言うから、絶対性はない。


だが…緋狭さんが差し向けた可能性が薄れたことは、純粋に嬉しかった。


保健室に現われたのは確かに緋狭さんで。


芹霞を見ても力を弱めなかった彼女。


それでも…俺達の"弱さ"を利用しなかったことだけでも、凄く救われた気がしていた。


純粋に、力でぶつかってくるのなら…俺達は立ち向かうだけ。


"強くあれ"


そうメッセージを残してくれた彼女を、俺はまだ信じている。