俺は思わず、繋いだ芹霞の手に力を込めた。


やらねえぞ、芹霞は。


こんな人混みの中、あの存在に気付いているのは俺1人。


俺は歯軋りをする。


どうする?


戦闘になったら…ここでは人が多すぎる。


移動するか?


だけど榊をやった奴、俺1人で何とか出来るか?


俺の片手は、自然とピアスに触れていて。


「…ねえ…、あの蝶々が飛んでる」


芹霞が固い声を出してきた。


「蝶々?」


七瀬の訝る声に、芹霞が更に訝った声を出す。


「紫茉ちゃん見えないの!? 黄色い蝶々が、1匹、2匹…うわあ凄い大群で…きゃああの人に!!!」


芹霞が真っ青な顔で指さした1人の女生徒。


俺も七瀬も…恐らく周りの奴も。


蝶の姿なんか目にすることは出来ず。


「ひいい!?」

「芹霞、おいしっかりし……はあ!!?」


七瀬の顔が強張って。


芹霞が指した女生徒が、突然絶叫を上げて目を押さえて倒れだした。


周りの奴らが異変に気付き、その女を抱き上げ更に声を上げる。


眼球が――

なかった。


まるで榊のように。



「蝶が…蝶々が、

また食べちゃった…」



見えているのは芹霞だけ?