煌Side
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俺が玲を手に抱き、七瀬を朱貴が肩に担いで、足早に3階の理事長室に向かう。


窓からは、ちらほら登校する生徒の姿。


もうそんな時間になったのか。


荒れた校舎に、ざわめき立っている様子が、窓から見て取れた。


小猿の術の効果かどうか、それとも緋狭姉と銀色氷皇が退いたせいかは判らねえけれど、漲っていた瘴気と気配が一斉に引いた。


凄く綺麗さっぱり、まるで夢のような騒ぎだった。


全て突然過ぎる、事態の展開の早さに…馬鹿な俺の頭はついていけねえ。


まるで夢。


夢であるならばと一縷の望みを託すけれど、小猿がいなければ…条件反射的に吐き気を催す身体。


ぐったりして目覚めない玲。


完全に、現(うつつ)の事象。


"生ける屍"の姿もどこにもねえ。


死んでまで利用されるなんて、たまったもんじゃねえ。


俺の手の中には、死んだように眠る白い王子様。


その表情は安堵ではなく…苦悶だ。


荒い息遣いが、こいつの心を語っている。


寝ているなら、起こせばいいじゃねえか?


――今、心は"エディター"に飛んでいる状態で、抜け殻の肉体を覚醒させたのなら…"生ける屍"になるぞ?


朱貴に言われ、断念した。


じゃあ何で、抜け殻の身体が苦悶の様を見せるのか…道理は判らねえ。


――身体の動きを、"心"と同じく考えるな。


強い語気で言われて、俺は押し黙った。