そう思えば、"夢"という世界に許可されている紫茉ちゃん…そして、その彼女に許可されている今の僕は、電脳世界における僕と対して差異はない気がする。


だとすれば、必要以上に身構えることもない。


この未知なる世界が、電脳世界と同種の類(たぐい)だというなら…僕は落ち着いて、冷静な自分を立て直すことが出来る。



『玲、今の場所はまだ"夢"に至らぬ意識の表層の表層レベル。これから…沈める。沈んだ先の景色は…今ほどの動きはないから…観察しやすいと思う』


「了解」


そして、動き続ける世界に覆い被さるようにして、セピア色の膜が張られた気がした。


『何故だか判らないが…その膜のようなものに包まれている限りは、潜った主に気づかれることがないらしい。その膜が、"夢"の世界を支えるものだ。

いつもあたしは、それを作りながら、色々"判断"してと…凄く精神力が消耗するんだが、今回はお前の監視に力を注げばいいから、気は楽だ。何かあれば言えよ? あたしに力があれば…お前の思考も読み取って上げられたはずなんだが』


「ははは。いいよ、僕の思考読み取られたら…恥ずかしいじゃないか。それに面白くなんてないと思うよ、僕の心の内」


『あはははは。まあ、芹霞一色の思考は、確かに面白味ないしな。単純で判りきっていて』


「そうだろう? 芹霞ばかりの単純思考なんて…あははは……はは…は…」


言葉を止めた僕は、そしてエビのように身を反らせた。



「――な、何で知ってるの!!!?」



僕、言って無いよね。


芹霞ばかり考えているなんて…いや、それ以前に芹霞が好きなんて言って無いよね?


そんな私的な会話をする程、一緒にいなかったよね?


僕…君に妬くくらい、会ってもすぐ、芹霞を独占していたんだよね?


『早く芹霞に、玲の想いが届けばいいよな。まあ…ライバルは多そうだが…まあ、こういうのは早い者勝ちだというし。それにしても、芹霞が面倒見がいい、鈍感女なのは苦労するよな、あはははは』


「――!!!!???」


僕は…七瀬紫茉という存在を、見誤っていたのか。


世間慣れしていない…少々ズレた少女だと思っていたけれど、観察眼は鋭すぎる。


伊達に…朱貴に守られる存在ではないらしい。


何だか、汗掻いてきた。