「葉山~!!!」


悲痛な声を無視して、私は櫂様だけを見つめた。


櫂様の腕の中には、青ざめて震える芹霞さんが居て。


「桜、やばいことに…現れた」


「え?」


「黄色い蝶…までもが」


私は驚愕に瞠目して、櫂様と芹霞さんを見つめた。


「地面が突然傾き、水と風の立て続けの攻撃の上、黄色い蝶まで現れ…緋狭さんは現われたBR001と一度引いた。黄色い蝶は、"エディター"の使い魔たるあの女の目を抉り、その命を完全に奪い消し去ってしまったんだ。

蝶は視える朱貴が潰したが…だが何もかにもが時間の問題だ。再び奇襲はあるだろう。その時は黄色い外套男も現れるかもしれない。

今、朱貴の領域は滅茶苦茶の状態だ。朱貴の案で、今のうちに氷皇の領域に逃げ込む」


「玲様は!!?」


櫂様が顎で後方を促せば。


現れた長身の朱貴の肩に、玲様の身体。


「あたしが…あたしが…」


その横には七瀬紫茉と、遠坂由香。


七瀬紫茉は、泣き出しそうな顔をしてふらふらしていて。


顔が…異常に赤く、息が荒かった。


「七瀬、ボクに掴まるんだ。君は…熱が酷いんだから」


遠坂由香が支えている。


「事態はより悪い。今の衝撃により、七瀬が先に目覚めてしまい…玲が取り残された。"エディター"に繋がる夢の中に。

玲は既に"彼女"側ではなく、"エディター"側に移動しているらしいから、玲の命は無事だが……入口たる"彼女"は蝶に殺られて意識を完全に塞ぎ、玲の出口がなくなってしまった。導き手がない限り、違う出口からは出て来れないらしい。

だが体力を消耗しすぎた七瀬が発熱してしまい、仮にここに"エディター"本人が居たとしても、再び夢には沈めれない状態だ。

更には、長時間の夢の滞在は…かなり精神力も体力も、磨耗するらしい。少なくとも、七瀬が熱を出すくらいは」


「ええ!!?」


じゃあ、玲様は!!?


心臓病がある、玲様は!!?



「ぐずぐずしてるな!!! また蝶やら刺客に襲われるぞ!!!?」


朱貴の怒声に、私達は慌ててその後に続いた。