「気分は…どうだ、BR002?」


銀の氷皇は、煌の出現に特に驚いた素振りはなく、ゆったりとした口調を向けてくる。


元仲間で既知の間柄とはいえ、銀の男が挨拶を口にするなどは余りに奇怪で。


だとすれば、多分――


「お前の仕業か、あれは!!!」


銀の男は、煌の異変に気づいている。


その理由は…


煌に異変を与えた犯人だから、か。



煌の言葉に何も答えず、ただ意味ありげな笑いを浮かべる男。


「――煌。保健室に行け」


私は、低い声を発した。


「あと5分弱。紅皇から・・・玲様を守れ」


一瞬。


煌は、櫂様と保健室を見比べるような、躊躇った表情を浮かべた。


「此処には私がいる。玲様はてめえをご所望なんだよ!!!」


それが何故だかは判らないけれど。


多分――煌には判っている。


それは酷く悲しげな翳りの出来た顔。


それで判ってしまう。


――玲様の"覚悟"を。


だったら尚更。


「玲様を生かせろ、煌!!!!」


私の怒鳴り声に弾かれるようにして、


「悪ぃ。桜…」


そう走って保健室へ行った。


「BR002如き…紅皇の相手にもならないというのに」


くつくつくつ。


銀の男は咽喉元で笑う。


「櫂様。此処は…桜が止めます。芹霞さんと共に、櫂様もどうか玲様の元へ!!!」


今の私達には、安息の場所などない。


保健室は避難場所ではなく、むしろ過酷な戦場なのだ。


それは誰もが判っていることなれど。


玲様を守るにはそれしかないのだ。


櫂様と芹霞さんと。


玲様が愛するものに守られれば、玲様はきっとこちらに帰ってくる。


緋狭様の攻撃力は無限大なれど、愛する妹かいればまた…その攻撃力を削ぐことが出来るかもしれない。


ならば。


危険承知で、芹霞さんも保健室に居たほうがいい。


彼女は、私達の"希望"札なのだから。