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「桜ちゃん!!!!」



あたしは歓喜の声を上げた。



「遅くなり申し訳ございませんでした、櫂様」



櫂の前で桜ちゃんが頭を垂らす。


「まさか、此の場で初披露するとは思っていませんでしたが…」


桜ちゃん曰く――


男が…あたしと櫂だと思って攻撃したものは、桜ちゃんの糸で編み出した、幻覚の"人形"らしい。


櫂に壁の穴の奥へ逃げろと言われて走った時、あたしの身体は突如現われた桜ちゃんに引き寄せられた。


そして桜ちゃんの"人形"にすり替り、男はあたしだと思って…胸を穿ったらしい。


それは男の一人芝居の滑稽な動きではあったけれど、それが自分にされているものだと思えば、何とも居心地悪い。


そしてその間に桜ちゃんは、更に糸で櫂の"人形"を作り…男は櫂だと思って首を手刀で裂いた…らしい。


――見ている限りでは。


男が相手にしているのがあたし達だから、想像力を刺激するリアルな主観と客観の入り混ざる…何とも奇妙な光景で。


多分、それは…複雑そうな顔をした櫂も同じだとは思うけれど。


1つだけ確実なことが言えるとすれば。


あたし達は、桜ちゃんの技により、命が助かったのだ。



「緋狭様の指導が…こんな処で役立つなど…」


なんとも複雑そうに唇を噛み締めた桜ちゃん。


お姉ちゃんのおかげで…助かったのだろうか。


男は…真紅の液体を撒き散らす、片目を抑えてふらふらしている。


ただ――そんな状態でも悲鳴を上げない。


恐ろしいくらい…無言なのが、気味が悪くて仕方が無い。