「そろそろいいか?」


朱貴の声に、2人は頷いた。


「2人共…戻ってきてね?」


2人の上に覆い被さるようにして、2人の頭を両腕に抱き留めた。


「大丈夫だ、芹霞。心配するな」

「紫茉ちゃん…」

「戻ってきたら…ご褒美頂戴ね?」

「玲くん…。うん、ご褒美ね!!」

「ふふふ、甘い甘い…蕩けるようなご褒美がいいな」

「うんうん、甘い甘い蕩けるようなご褒美ね?」


俺を横目で見ながら、飛んでもないことを言い出した玲。


そして俺の前で笑顔で約束した芹霞。


絶対…芹霞の頭の中には、甘い菓子しか浮かんでいないはずだ。

だけど玲の求める"ご褒美"は、食い物なんかじゃない。


こんな時でも玲は…俺を煽って、俺の考えを改めさせようとしているらしい。


だから――

俺は表情を崩さない。


必死な玲を見ればみる程、俺は玲を守らねばならないから。


揺らげないんだ、悪いが。


玲が顔を曇らす中、朱貴が言った。


「もしも、俺が危険だと判断したら、強制覚醒させる。いいな?」

「「はい」」


2人は頷き…目を閉じた。


それを確認して、俺は芹霞の手を引き、朱貴に声をかけた。


「俺は、これから煌を探しに行く。その間、どうか2人の身体を頼む」


俺は芹霞と頭を下げた。


「いいのか、俺を信用して。お前はまだ…俺に対する猜疑心が完全には抜けていないはずだ」


何処までも…鋭い朱貴。

だったら、俺だって言ってやる。


「此処に七瀬がいる限り、お前は手出しが出来ない」


にやりと笑ってやれば、途端に朱貴が苦虫を噛み潰した顔をする。


この男が崩した表情をするのは…爽快かもしれない。


「……早く行け。"親玉"が乗り込む前に」


少し怒ったような口調からすれば、やはり図星だったらしい。


カマをかけただけだったんだけれど。


俺はくすりと笑いながら、保健室を出た。