「この屍達の腐敗の様子を見れば、今しがた急遽"死んだ"わけじゃないな。2ヶ月前の名残か? 玲が居れば、死体から死亡時期を推定出来るだろうが…」


「驚かないんだね」


「今更?」


櫂に動じた様子がないのは、屍の出現を櫂は予想していたのだろう。


多分…取り憑かれたような、"あの女"を見た時に。


ただ…あの時の上岐妙は、以前見ていた"生ける屍"とは違い、やけに"生"に対してがつがつしていたようにも思う。


基本"奴ら"は、虚無の表情を向けるから、生気というものは余り感じられないのに。


その違和感はあるものの、それも新種の"ゾンビ"だというのなら、上岐妙は…少なくとも保健室に在るあの肉体は、"死んでいる"ということになるのだろうか。


櫂は、一縷だと言った。


一縷は死んでいると言った。


ではあの肉体は"生ける屍"なのか。


上岐妙やらイチル様やら、まだ納得できない部分はあるものの…ただ一度"生"を断絶したというのなら、その前身は…イチルちゃんなのだろうか。


あたしはまだ明瞭に思い出せない。


何かが思い出すことを拒んでいるようで。


いつもほわほわしていて、記憶の全てをあたしに頼っていた櫂が、現在は昔を覚えていてあたしが忘れているなんて、何だか許しがたい気はするけれど。


「ねえ、中に入ってこないのかな?」


「ここには幾人もの結界が多重にかけられている。屍如きには破られはしない。どんな瘴気を放とうとも…。

だが……。

……瘴気の流れが…変わってきたな」


突如櫂は目を細めた。


「拡散していた瘴気が…1つにまとまりつつある」


瘴気というものもさっぱりのあたしは、はあ、と言うことしか出来ない。


「これは…"兵隊"ではないのか、もしかして」


そう呟いた時、


「よかった…。無事だったんだね?」


いつもにっこりほっこりの玲くんが現れた。


――僕の想い…判って?


いつものその優しい瞳が…


……居心地悪い。