煌Side
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「ねえ、あの新しいセンセ…何か怖くない?」


芹霞が小さい声で、俺にそう言った。


「怖い!!? あんな軟弱そうなのが!!?」


どう見ても、弱小動物にしか思えなかった俺は、しげしげと芹霞を見つめる。


「いや…煌の動物センサーにひっかからないなら、気のせいだね。うんうん、多分そうだわ、あたし神経過敏になりすぎてるわ。あはは、忘れて?」


芹霞は笑いながら玄関で靴を履き替え、そして俺達は帰路につく。


何なんだろ、一体。


暫し、たわいない雑談しながら、最寄の駅に向かう。


ふと。


テストという厄介な荷物が無くなれば、俺は芹霞と2人きりでいることに、今更乍らに気付いた。


2人きり。


別に今が初めてじゃねえのに、妙に緊張して…同時に情欲をそそられるのは何故だろう。


我慢ばかり強いられてきたからか。

朝、またしても寸止め喰らったからか。


凄く芹霞が"女"に見えて、喉が乾いて仕方がない。


こっちはお前想って憔悴してるのに、お前やけに色艶いいよな。


昨日あんなにわんわん泣いていたのに、随分と上機嫌だよな。


まさか、玲のせいじゃねえだろうな?

お前、玲は全然拒まねえけど。


冗談じゃねえ!!


ああ、柔らかそうなその白い肌に存分に触れて、ぎゅっと抱き締めて…俺の身体全体で強くお前を感じてえ。


あわよくば、その先に進んで…。


くそっ。


これなら俺、本当に盛った犬じゃねえかよ。


手を出そうとしたら、どうせまた、"絶交"って言われて、俺は手を引っ込めるのだろう。


俺、香水女から手を引いて、本当に禁欲生活してんだぞ。

若々しい時期を、1人悶々としているんだぞ!!


早く…責任とってくれよ!!!


ああ、自分がもどかしい。


何でこんなヘタレなんだろ。


そりゃ待つさ。

待つと言ったさ。


だけどよ…。


みすみす他の奴が手を出す様を、黙って見ていられるほど俺は辛抱強くねえし、待つという受身の姿勢でいれば、此の世が終わっちまう不安に駆られる今日この頃。