桜Side
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「よし、結界は大丈夫」


私は裂岩糸を1つ1つ確認しながら、校舎を回った。


桜華は校舎が3つで成り立つ。


1つは中等部棟、2つは情報処理室がある高等部棟、3つ目は此処…教職棟。


教職棟は、保健室や職員室、理事緒室学園長室まで、全てが収められており…中等部と高等部に挟まれた、コの字型で存在している。


そして内側には中庭が拡がっているような形状だ。


誰が忍び入っているか判らない校舎の隅々まで、私は糸を張り巡らせる。


先程切れていた糸を修復してから、断絶の名残は見られない。


上岐妙に襲われた楓という少女をある程度の場所まで送り届けても、糸に変化はみられていなかった。


私は――


一縷という少女に思いを巡らせる。


櫂様と芹霞さんが昔会ったという黄幡一縷。


昔に死んだはずの黄幡一縷。


それなのに現在肉体を持つという黄幡一縷。


現在幽霊になって殺人を犯すという黄幡一縷。



"時系列が違う"


玲様はそう表現したけれど、昔は昔、今は今と考えればどうなるか。


櫂様と芹霞さんが会った少女は、昔に既に死んでいる。

現在の黄幡一縷は"イチル様"と崇められるような美しい肉体を持ち、そしてその肉体を捨て、上岐妙という名の肉体で不条理な復讐を遂げようとしている。


実体が掴めない一縷。

しかし人々の中に"存在"している一縷。


屍体として上がった一縷。

上岐妙に取り憑いた一縷。


時系列が違えば、一縷の殺意は…どの時点の何に対してのものなのか。


そう、今でも尚カリスマとされる一縷の輪郭は、何処までも曖昧なのだ。