櫂は笑ったんだ。


――全ては"必然"、だ。


最悪の場合と前置きしていながら、あいつは自らその"切り札"で攻め込もうとしている。



――此の世で最大の防御は…最大の"攻撃だ"。



――それ以外では、緋狭さんに立ち向かえない。



櫂の中での緋狭姉の存在は、消えてねえ。


敵になりました、はいそうですかと…納得出来るような、そんな軽い関係じゃねえんだ。


俺だって同じ。


玲だって桜だって。


皆、緋狭姉に救われ…人生を変えられて来た者達だから。


出来るなら。

可能な限り。


緋狭姉と相対した場面に遭遇したくねえ。


心が痛すぎる。


心底信頼していた緋狭姉が…どうして敵になってしまうのか。


だから思わずにはいられないんだ。


俺が…緋狭姉の、仇だから?


どうしても不安は消えねえ。


芹霞が居ても、櫂が居ても。


例え不安の火は消えても、燻りは残る。


こんな状態で。


櫂も玲もこんな状態で。


俺は…何が出来るというのか。