煌Side
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保健室の中は、妙な静寂に包まれていた。


玲が――動かねえ。


芹霞が出て行ったドアを見つめたまま、苦しそうな表情を浮かべて。


唇噛みしめて…やがて俯いた。


馬鹿な奴。


本当、お前…手先は器用だし何でも難なくこなすくせ、芹霞に関しては本当衝動的で不器用だよな。



「何で、"今"…動くよ、お前…」


切羽詰まったように、ただ闇雲に。


こんな時、こんな場所で。


いつもイロイロ考えすぎて動けないお前が、どうしてこんな時に芹霞に想いをぶつける?


今はそんな時じゃない。


限られた時間は、櫂の為に使わねばならない。


俺だって、それくらい判る。


いつもの冷静なお前なら、それくらい判っていたはずだ。


更に今、ここで想いをぶつけた処で、返るものなど何もねえ。


今の芹霞の頭の中は、櫂を助けることで一杯だ。


そんな状況で何をしても、ただ無謀に終わるだけ。


それをお前が十分判った上での行動だというのなら、お前を突き動かした原因は1つ。


「お前が不安がるような"未来"になるとは限らねえだろ!!?」



――お前達に言っておきたい。


「今、大事なのは…優先すべきは…櫂だってこと、お前十分判っているんだろうがよ!!! お前、俺と一緒に聞いてたろ!!?」


櫂の"切り札"。


俺と玲が、必死に反対した櫂の"切り札"。


櫂は――


覚悟してるんだ。


どんなに俺達が頑張るから信用しろと言っても、聞く耳もたねえ。


"最悪なもしもの話"


いつも絶対、最悪な事態なんて招くことを許さず、強引に完璧に勝利を勝ち取る櫂が、初めて見せた"最悪の決意"。


それを語るという時点で…あいつのダメージがいかに強大で、そして俺を、俺達を信用していないのかっていうのが、一目瞭然だろう。


それを辛く思っているのは…俺だけじゃないはずだ。


――何で傷ついた顔してるの!!?