櫂Side
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「屋上からなら…ここの地形がよく見えるな」


「そうですね」


此処から見下ろした先から、血の臭いを風が運んできた。


――櫂様、凄い瘴気が…。


桜が指した先は…


――ははは、桜。あそこは鈴ヶ森刑場。瘴気の溜まり場だ。仕方が無いさ。


俺の声に、桜は頷いた。


11月の風は冷たく、俺の髪を揺らす。


こういう気分の時は…この冷たさが丁度いい。


――櫂、だけどそれは!!!



俺を抑える…いい温度。



――馬鹿言ってるんじゃねえ!!!



「…どうした桜」


「櫂様…本当になされるんですか?」


固い顔をして聞いてくる。


「何だ、お前は…反対なのか?」


「私は…」


桜は口を噤(つぐ)んだ。


「成功する確率が完璧に100%ではないですから」


そして俯く。


「こればかりは…100%でなければ…」


俺は白ばんできた空を見上げた。


――坊は死ななければなりませぬ。



「そうだな…100%でなければ」



――死なねば、全てが水の泡。



「俺は…生きていないだろう」




――ならばかつての師匠である私から、見事な死を与えましょう。



「だけどそれは、最終手段。それが…唯一俺が持てる手札。だとしたら…最後にはそれに縋るしかない」