理性を振り絞り、地下の修練所に降りて、最近見慣れてきた1室に向かう。


それは地上の神崎家内とは思えぬ程、最新設備が整った部屋で。


まるで櫂様の家の中のようで。


私は荒い息を繰り返しながら、よろよろとその部屋に入った。


緋狭様は、その部屋の中に在る…ある戸棚から、薬をくれる。


私はその戸棚を開けた。


どうか、まだありますように。


これは私にとっても、玲様にとっても"希望"なのだ。


今、櫂様をお守りしないといけない時期において、私達を支える命綱。



戸棚を開けた空間には――


「そんな!!!」


いつもの小瓶は入っていなかった。


代わりに入っていたのは、白い錠剤が納められている小瓶で。


"ジキヨクナール"


最近CMで煩い、胡散臭い名前の風邪薬。


それもZodiac唯一のCMで、彼らの音楽が流れる…忌々しいもので。


どうして!!?


何で風邪薬が!!?


私が欲しいのは、"α-BR"。


幻覚も痛覚も、全てを麻痺させる鎮痛剤!!!


至る処の戸棚をあけて探してみたけれど、小瓶はなく。


「あああああ!!!」


私は崩れ落ちた。


希望が…失われた気になった。


玲様は、これからどうなる!!?


あと1回しかないこの薬を飲んだ後、玲様はどうなる!!?


ああ――


私の幻覚が始まる。