桜Side
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いつかくるとは思っていたけれど、


私の"薬害発作"は突然、会話中に起こった。


手足がぶるぶると震え始め、血が通わなくなる。


それなのに異常な汗だけが滴り落ちて――


そして。


幻覚が始まる。



私は、緋狭様からいつも薬を手渡されていた、地下の一室へと走った。


足は次第にかくかくと言うことを聞かなくなってきて、周りの景色も薄らいでいく。


駄目だ、絶対こんな姿を櫂様達に見せては駄目だ。


自然と私の手は、ポケットの中の小瓶を取り出していて。


半分に減った"α-BR"。


今飲めば、私は苦しまずにいられる。


だけど。


もしもこの薬が、私が手に入れられる最後のものだったのなら。


もし玲様があの発作を再び起こされたら。

もしも私が玲様にこの薬を飲ませていたのなら。


玲様は助からないかも知れない。


健常者でさえ苦しみ藻掻くあの幻覚の苦痛。


玲様の心臓は、今度こそもたないかも知れない。


だとすれば。


他に予備がない限り、無闇に私が飲むことは出来ない。


もしこの手の中の薬が、最後のものとなるのなら。


この薬は、玲様用のものだ。


私が飲んではいけない。