「緋狭姉の気配ないな…居ないのかな」


煌が目を細めながら、周囲を警戒している。



「緋狭さんが、もし俺達の知る緋狭さんであるのなら。

必ず居る。此処は…彼女の絶対的な領域(テリトリー)だ」



確信があるんだ。


緋狭さんは居る。


俺達を待っている。



その時。


「櫂様…桜はちょっと地下の修練所を…」


そう言いかけた桜は、突如顔を歪めた。



「桜? 大丈夫か? 顔色悪いぞ?」


「…大丈夫です、桜は元気です」


「桜ちゃん…足の傷、まだ治りきってないんじゃ? 小々猿が治してくれてはいたんだけれど…完全じゃないんじゃないの?」


芹霞が心配げな顔を向けた。


「いえ…足ではないので」


俯いた桜は、そう…言った気がする。


小さすぎて、よく聞き取れなくて。


「え?」


代表して聞き返した芹霞に、はっとしたように桜は顔を上げて。


「い、いえ…櫂様、桜…地下を見て参ります!!」


俺の返事を待たずして、駆けるようにして消え去った。


「何だ、あいつ。何であんなに焦ったように?」


煌が首を傾げた。


「大丈夫かな、葉山。汗…吹き出ていたよ、額から」


遠坂は、益々眉の角度を急降下させた。


「鬼の攪(かく)乱かな? だけどさ、此処が久涅に見張られていたら、そんな状態の桜1人でやばくないか?」


煌の固い声色に、玲が反応した。


「久涅が出てきたら確かにまずいな。2時間まであと15分弱。警護団も出てくるだろうし…。一応、僕も行くよ、何だか心配だ」


「じゃあ全員で行こうぜ? 散り散りになるのは危険だし」


そして俺達は、桜を追うようにして、神崎家の地下へと潜った。


何故桜が1人で先に飛び出したのか、その意味を知らずに。