「電気…つかないね」
家に入った俺達。
芹霞が壁のスイッチをパチパチと押しているようだ。
「止められているね、電気の流れが感じられない。故意的かな…」
玲が暗闇でごそごそと何かを取り出した。
それが青く発光し…伸びゆく青光が、室内の至る所に絡みつくと、突如室内が明るくなった。
玲の手の中には、月長石。
「暇さえあれば電気を備蓄していたからね、この電力は半端じゃないよ」
玲にかかれば、現代社会を動かすのは何て簡単なんだろう。
だからこそ、久涅は玲を欲しがるのかもしれない。
加えて玲は聡明だから。
本当に…俺に此処まで仕えてくれるのが忍びない程だ。
此処まで尽して貰っているのに、俺は玲に何もしてやれていない。
玲に最大の幸福を与えてやりたいが…
俺はそれが出来ないから。
芹霞はやれない。
それだけは――出来ないから。
玲の望みが、判っているだけに…辛いんだ。
俺は――
主の資格がないのかも知れない。
いつか玲が離れて行くのかも知れない。
それでも俺は――
芹霞を与えられないんだ。

