櫂Side
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八門の陣の終結は――


神崎家だった。



かつてこの家は。

俺の心の拠り所で、俺の還るべき場所だった。


8年前。


俺は自分を変えるために、甘さの要因となる温かな神崎家を切り離すことにして、余程の用がない限りは神崎家に出入りしなくなった。


それでも、愛情が消えたわけではない。


煌が如何に神崎家を大事にし、慈しんで守ってきたか…それをひしと感じる度、それを俺の想いと同化して転化して…今でも俺は、昔と変わらず神崎家を我が家のように大切に思っている。


煌を通して、愛情は注いでいたつもりだ。


俺の実家は紫堂本家ではなく、神崎家なんだ。


神崎家の住人は、俺にとって本当の家族であり、失いたくない大切な人達ばかりで。


中でも緋狭さんは、気紛れのようにふらりと家に戻ってきて、あまり長時間に強く関わった記憶はないけれど、溺愛する芹霞と共に、限られた時間内で俺を慈しんでくれていたように思う。


大好きな芹霞が、大好きな姉だから。


馴染んだきっかけはそんなものからだけれど、その緋狭さんが…8年前、俺の人生を左右するキーパーソンになるとは、そして如何に慈愛深い…偉大なる強者であったのか、予想すらしていなかった。


緋狭さんが、平然とした顔で背負っている世界はシビアで大きすぎた。


たかだか異能力者の寄せ集めにしか過ぎぬ紫堂とは、比較にならぬ程広大で…そして窮屈すぎる世界に生きていて。


緋狭さんに対して絶大な崇敬心しか抱いていなかった俺が、今の自分を確立出来て周りを見る余裕が出来はじめた頃、

教育係としてしばしば紫堂本家にて顔を見合わせるようになった緋狭さんが、井の中の蛙にしか過ぎぬ弱小紫堂の命令に従う理由は何なのか…そんなことをぼんやりと思うようになった。