「これは躾の範囲内。暴力じゃないからね?」


さらり。


雅に同情の眼差し向けていた俺達ににっこりと微笑み、何処かの…子供虐待する親が口にしそうな台詞を、わざと選んだ玲。


あっちで…テーブル越しにこっちを覗いている主君が、びくびくしてる。


玲は俺に櫂を渡して、朱貴の元に近寄った。


朱貴は憮然とした顔のまま腕を組んで、玲と雅のやり取りを見ていたらしかった。


「君の正体は判らないけれど…五皇や久涅に脅されて、こうして櫂達に攻撃をしていたというのは判るつもりだ。

雅…凱は、君の行動の監視役だったんだろう?」


そうなのか?


「僕達は元より、これ以上翠くんや紫茉ちゃんを巻き込むつもりはない。もう少ししたら此処を出て行くつもりだった。

彼らの好意に甘え過ぎていたのは確かだ、それだけは謝罪する」


玲は頭を下げて。


その潔くも凛とした姿に、俺は櫂の姿を見た。

ああ櫂と同じ血を持つこいつもまた、次期当主の名に相応しい器をもっているんだな。


その時、俺の腕の中にいる櫂が身動ぎをして、意識を戻したようだ。


切れ長の目が開き…吸い込まれそうな闇色の瞳が俺を見た。


「ん……。煌?」


「僕達に気配を悟られず、煌と桜がいて抑えられない君が何者か、詮索するつもりはないけれど…五皇に匹敵する力の持ち主だと言うことは判るつもりだ。その君が、櫂を生かしたということは…敵対して命奪うのは本心ではないということだろう?」


櫂は自らの力で体を起こし、目を細めながら状況を把握するための情報を素早く取り込んでいるようだ。


「ここは…引いてくれないか」


玲は――


朱貴の前で…土下座を始めた。