「まさか…煌と同じ速度になるとはな」
桜が忌々しげな顔で俺を睨んできた。
「あ?」
「判ってないのか、てめえ」
そう言われて…認識する。
俺の速度…素早い桜と同じになってる?
そして。
偃月刀も…妙に軽い気がする。
何だ?
俺此処でレベルアップしたのか?
ボス並に強い奴と闘うだけで、経験値貰えるのか?
ちゃらちゃら~ん。
俺の頭の中に、やりかけのRPGゲームでのレベルアップ音が鳴り響く。
「馬鹿か、てめえは!!! もっと現実を見ろ!!!」
憤った桜が、俺の手首を指差した。
かつて…緋狭姉の腕環をつけていた手首を。
――金翅鳥(ガルーダ)!!!
…緋狭姉の目茶苦茶重い腕環がなくなったからか!!?
「!!!」
チビと朱貴が同時に攻撃してくる。
俺はチビの攻撃を躱しながら…緋狭姉のことを考えていた。
こんな時。
緋狭姉の鍛錬の成果が判るなんて、皮肉すぎる。
桜が口にした"現実"という単語が、俺から消したい記憶を引き摺り出す。
――醒めて見る景色こそ、現実。
体の器官が全て動きが停止したようなショック感を経て、まるで血が逆流するように…激しい感情が流れ込んできた。
ああ、くそッッ!!!
今、それ処じゃねえだろ!!?
考えるな、考えるな!!!
だけど。
――夢は――醒めるものだ。
「緋狭姉!!!!」
俺は吼えた。
体に溜まっていた認めたくない現実が、哀しみと苦痛を伴って体に襲いかかる。
「どうしてだよ、緋狭姉!!!!」
俺はこんな戦闘場面で――
緋狭姉との思い出だけが頭に駆け巡っていて。

