「朱貴!! 心配していたんだぞ!!?」


廊下で七瀬の声が聞こえて、朱貴と共に居間に入ってきた。


ゆるやかなウェーブかかった煉瓦色の髪。

濃灰(ダークグレイ)色の瞳。


確かにそれは、秀麗な顔立ちをした麓村朱貴で。


七瀬は笑顔で、両手一杯のでかい皿に、握り飯を山に積んで入ってきた。


「朱貴!!! よかった、帰って来れたんだな!!!」


「はい、翠くん。僕は大丈夫です」


朱貴に抱きつく小猿を、笑顔で抱き留める朱貴。


それはきっと…この家での和やかな日常の風景なのだろうけれど。


俺達は…顔を見合わせた。



…何だろう。


俺も桜も、警戒を解くことが出来ねえんだ。


朱貴の…翳りすぎた無表情に思える顔に…油断出来ねえ。


「ああ、紫茉。おにぎりは台所に持ち帰りなさい」


七瀬は眉を顰めた。


「これは、芹霞達に食べて貰う為に、心を込めて作ったものだ」


「判っています。だから、持ち帰りなさい。

折角作った食べ物が、散り散りとなってしまう前に」



「――…え?」



その瞬間。



朱貴が、俺と桜を擦抜けて櫂の腕を掴み、鳩尾に拳を入れたんだ。