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パソコンの電子音と同時に――

玄関のドアが開く音がした。


その音に反応し、身構えたのは俺と桜がほぼ同時。


俺達は、やはり音がした方向に顔を向けた櫂を、守るように前に立つ。


「あ…やっぱり駄目だな。短時間で師匠が望むような独自ネットワークを組むには、このPCスペックが足りなすぎるから、容量OVERでせっかくの調教プログラムが途中で動かなくなってしまう。突然変異は…不発にて死亡、か。だとすれば、猛増殖している師匠のメインコンピュータのワームは、どれだけの出来だというんだよ…」


遠坂の度胸は凄いと思う。


確かに、玲を絡ませた機械関係を任せたら、凄い集中力になるけれど…今、お前の隣で俺達が警戒に神経尖らせぴりぴりした空気纏っているのに、何だよ、そのマイペースさ。


お前、何処の世界に行っちまってるんだよ。


思えばこいつ…今回黙ってばかりで大人しすぎるから、時々居ることすら、忘れてしまう。


やっぱり榊がやられているのが堪えて、意気消沈しているのだろうか。


闘いになると真っ先に体を縮こまらせて逃げの態勢に入るのは、普通の人間の反応といえばそうだろうけれど、"約束の地(カナン)"の時はここまで逃げ腰ではなかったような…。


時々、ぼうっと焦点あわない目で俺達見ていることもあるし…。



こつ、こつ、こつ。



足音がする。


音はするのに気配は掴めないことが、余計に俺達の気を張らせた。


ありえねえんだ、此処に居る全員が全員…こんなに完全に気配を感じられないコトなんて。


過去そんなことがあったのは、こっちが余程油断していた時か…五皇の出現時だ。


緋狭姉の動きも氷皇の動きも、俺達は未だ気配を掴めねえ。


ふらっと現われ、ふらっと消え去る。


神出鬼没なんだ。


こつ、こつ、こつ。



気配は完全に殺せるのに、物理的な物音を隠そうとしないのは、気配を無意識に消すのを強いられる世界に生きるやばい奴か、氷皇のようにわざと"力"を誇示したがる性根の腐った奴だ。



さあ――


どっちだ?